悪質な口コミに開示請求したい!風評被害・誹謗中傷の対策を弁護士が解説

近年、インターネット人口の増加やSNSの発展に伴い、誰もが気軽にインターネットに投稿を行うことで、不特定多数の人に瞬時に情報を発信することが可能になりました。これにより、情報が共有化され、商品やサービスがヒットすることがあります。

 

しかし、一方では悪意のあるユーザーによって、事実と異なる投稿がなされ、商品やサービスの売れ行きが減少するといった事件も確認されています。

 

弊所では、法人(企業)や個人の方で誹謗中傷・風評被害でお困りの方からのご相談を受けてまいりました。本稿では、風評被害対策について説明します。

 

風評被害とは

風評被害とは、一言でいうと、正確でない情報が広まることによって、特定の企業や人物が被害を受けることをいいます。

 

少し昔までは、風評被害といえば、あらぬ噂を流されるというイメージがありました。そして、人の噂も七十五日ということわざがあるとおり、風評被害が人の噂によるものである場合は、時間の経過とともに被害も回復していきました。そのため、たとえ風評被害が生じたとしても被害が大きくなることは多くはなく、対策方法としても単に時間が過ぎるのを待つといった場合がほとんどでした。

 

風評被害増加の実態

しかし、前述のとおり、インターネット人口の増加やSNSの発展に伴い、誰もが気軽にインターネットに投稿を行うことが可能になったことで、インターネットの投稿による風評被害が増加し、社会問題になっています。

 

インターネットは瞬時にかつ不特定多数の者に情報を発信することが可能です。特に特定の企業や人物に関する悪評は、ユーザーの興味を引くため、おもしろおかしく扱われ、世界中に一瞬で情報が共有されることもあります。

 

また、インターネットへの投稿は、一度投稿を行えば削除しない限り投稿として残り続けるため、時間が経過してもユーザーが繰り返し情報を目にするという特徴があります。特に特定の企業や人物に関する悪評は、画像として保管され、その画像が何回も転載されることがあり、簡単には忘れられないという点も特徴です。

 

自社の商品やサービスに自信がある場合は、「悪評なんて生じるわけがない」と考え、風評被害への対策も必要ないと考えている企業も存在します。しかし、許しがたいことに、競合する他社から依頼を受け、インターネット上で商品の評価を低下させる投稿を行うような極めて悪質な業者も存在するとされています。そのため、商品やサービスに非がない企業であっても、風評被害を受けることは十分に考えられ、どのように対策を講じるかは企業の大きな課題となっています。

 

風評被害対策方法

風評被害に対しては、様々な対応策が考えられますが、大きく分けると、①削除請求、②発信者情報開示請求、③損害賠償請求、④逆SEO対策といった対応策を挙げることができます。

 

削除請求

風評被害対策としては、まず風評被害を生じさせている投稿を削除するように求める、つまり削除請求を行うということが考えられます。

 

インターネットで自社の商品を検索すると、検索結果の上位に悪評を掲載したウェブサイトがヒットしてしまう場合や、悪評を掲載した投稿が昔の投稿で、既に投稿から時間が経過している場合などは、削除請求を行うことが多いです。

 

法律上は、そのような投稿を行った本人、あるいはそのような投稿がなされたウェブサイトの管理運営者に対して削除請求を行うことが可能です。

しかし、投稿は匿名で投稿され、誰が投稿を行ったかは明らかでない場合がほとんどですから、実務上は、ウェブサイトの管理運営者に対して削除請求を行うことになります。

風評被害を生じさせている投稿に対しては、企業の名誉権を侵害するものであると主張して、投稿の削除を求めていくことが一般的です。この場合、投稿が企業の名誉権を侵害すること、すなわち名誉毀損が認められることを主張することが必要になります。

また、風評被害を生じさせている投稿に関し、名誉毀損が認められない場合であっても、その投稿が、企業が著作権を持つ写真などを使用している場合には、著作権(複製権、公衆送信権)侵害を主張することで、投稿を削除することができる場合があります

 

削除請求を行う方法としては、通知書を発送し裁判外で削除を求める方法、裁判所に訴訟あるいは仮処分を申し立て裁判上の手続で削除を求める方法が考えられます。削除請求の場合、後述の発信者情報開示の請求と異なり、ログの保存期間という時間的制約が存在しません。このことから、ウェブサイトの管理運営者に対し、裁判外での削除を求め、これに応じてもらえない場合は、訴訟あるいは仮処分という裁判上の手続を行うことが多いです。

しかし、ウェブサイトの管理運営者のなかには、投稿者の表現の自由を重視するというスタンスを取り、裁判外での削除請求にはほぼ応じないものも存在します。そのため、少しでも早期に悪評を掲載した投稿を削除したい場合は、事案とウェブサイトの管理運営者の対応を踏まえた適切な選択をとることが重要になります。

 

発信者情報の開示請求

風評被害対策としては、次に、風評被害を生じさせている投稿を行った者の情報を開示するように求める、つまり発信者情報の開示請求を行うということが考えられます。

 

発信者情報の開示請求は、ウェブサイトの管理運営者に対して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律、通称、にプロバイダ責任制限法(プロ責法とさらに省略することもあります)に基づいて行います。インターネットで繰り返し、自社の製品を貶めるような投稿を行う者がいる場合や、投稿を削除しても同じような投稿が繰り返し投稿された場合など、投稿を削除するだけでなく、投稿者を特定して、投稿者に法的責任を追及する場合には、発信者情報の開示請求を行う必要性があります

 

発信者情報の開示請求を行う場合、ウェブサイトの管理運営者は投稿者の住所や氏名といった個人情報を保有していない場合が多いです。そこで、まずは投稿が行われたウェブサイトの管理運営者(コンテンツプロバイダ、と呼ばれます)に対して、投稿を行った者がどの通信回線を用いていたかの情報(具体的には、IPアドレスやタイムスタンプといった情報です)の開示を求めます。

 

そして、ウェブサイトの管理運営者から開示された情報に基づき、投稿者が利用していた通信回線を割り出して、今度は通信回線を提供していた事業者(アクセスプロバイダ、と呼ばれます)に投稿者の個人情報の開示を求めることになります。通信回線を提供している事業者は契約者の情報として、投稿者の個人情報を保有しているので、通信回線を提供する事業者がこれに応じれば、投稿者を具体的に特定することが可能になります。

 

ただし、通信回線を提供している事業者は、いつだれがどのIPアドレスを使用したのかといったログを保存していますが、このログの保存期間は、事業者ごとに異なり、多くの事業者はログを3カ月から6カ月しか保存していないとしています

 

そのため、発信者情報の開示請求を行うには、ログの保存期間という時間的制約が存在し、タイムスケジュールを逆算して的確な請求を行うことが重要になります。

 

損害賠償請求

風評被害対策としては、次に、風評被害を生じさせている投稿に関して、損害賠償請求を行い、金銭の支払いを求めるということが考えられます。

 

損害賠償請求を行う相手方としては、上記の発信者情報の開示請求を行うことで明らかになった実際の投稿者と、悪評を掲載した投稿がなされたウェブサイトの管理運営者が考えられます。前者に対しては、悪評を掲載した投稿を行った責任を追及するものであり、後者に対しては、悪評を掲載した投稿がなされたにもかかわらず、そのような投稿を自身が管理するウェブサイトに掲載させた責任を追及するものです。

 

しかし、後者のウェブサイトの管理者運営者に対する損害賠償請求は、プロバイダ責任制限法3条1項において、「情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき」または「情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき」に限り認められるとされていて、責任が制限されています。

 

これは、ウェブサイトの管理運営者は、投稿が違法かどうか判断することは難しく、投稿が違法でないのに削除した場合はかえって投稿者から責任を追及される可能性があることに配慮したものです。

そのため、この要件を満たす場合は多くないと考えられており、損害賠償請求を行う場合は、実際に投稿を行った本人に対して訴訟を提起することが多いです。

 

逆SEO対策

風評被害対策としては、次に、逆SEO対策を行うということも考えられます。

 

SEO対策のSEOとは、Search Engine Optimizationの略称であり、検索の結果で自社サイトを上位に表示させるための対策のことを指します。

そのため、逆SEO対策とは、SEO対策の反対のことをするということであり、企業にとって悪評が掲載された投稿が検索結果に表示されないようにする対策のことをいいます。具体的には、問題となっている企業に関して、様々なウェブページを作成することで、悪評が投稿されたウェブページを検索されにくくします

 

逆SEO対策のメリットとしては、削除請求や発信者情報の開示請求がうまくいかない場合であっても、対策を講じることが可能であるという点にあります。しかし、投稿自体を削除することはできないものである以上、その効果は限定的です。また、どれだけの効果が生じているのかも分かりにくいというデメリットが存在します。

 

GoogleやYahooといった検索サイトで採用されているアルゴリズムは常に改良され、インターネットの検索結果の表示は利用する人ごとに代わるため、悪評が掲載されたウェブサイトをうまく隠すことが難しい場合もあります

 

風評被害を放置することのリスク

風評被害に関しては、厳格に対応することをお勧めします

 

様々な団体が、消費者は商品やサービスのレビューをどれくらい参考にするか、という点を調査しています。

総務省の調査によると、インターネットショッピングサイトで買い物をする際にレビューをどの程度参考にするのか、と尋ねると、どの年代でも「かなり参考にする」、「まあ参考にする」と回答したのが6割強に上るとされました。そして、年代が低いほど「かなり参考にする」の割合が高くなり、若者ほどレビューを参考にして買い物をしている傾向があるとされています。

 

上記の事例はショッピングサイトのレビューに関するものですが、インターネットの投稿は、想像以上に強い影響力を持っており、風評被害を生じさせるような投稿を放置すると企業に大きなダメージが生じる可能性があります。また、仮にインターネット上の投稿による悪評を放置すると、投稿を行った者が、「自分は安全だ」と考え、さらに悪評を発信する場合があり、これによりさらに企業がダメージを受けるリスクが存在します。

 

明らかに悪評が生じ、企業がダメージを受けているにも関わらず、これを見過ごせば、一般的なインターネットユーザーや消費者は、悪評の内容を信じ込んでしまう可能性があり、悪評による被害が大きくなった後に、企業においてその内容を否定しても信じてもらえず、事実に反する悪評が既成事実化してしまうというリスクも生じます

 

風評被害対策について当事務所ができること

以上のとおり、どのように風評被害から身を守り、対策を講ずるかという点は、企業における課題の中でも年々重要度を増している問題です。

特に、裁判上の手続により、風評被害対策を講じるには、名誉毀損・プライバシー侵害、知的財産権といった問題への理解が不可欠です。

 

西村綜合法律事務所では日頃からこのような法律問題を取り扱っており、風評被害対策に長けた弁護士が在籍しています。お困りの際はぜひ弊所にご相談ください。