これって不当解雇?解雇基準・リスクや無効となるケースを企業側弁護士が解説

労働者の勤務態度の悪さ,能力不足,賃金による経営の圧迫等で,解雇せざるを得ない状況に陥っているが,本当に解雇して良いのか分からない企業経営者が多いのではないでしょうか。今回は,解雇における注意点等を紹介いたします。

解雇を検討する際に知っておくべき基礎知識

民法では,「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」とされていいます。そのため,民法によれば,いつでも,正当な理由がなくても,2週間の予告期間をおくことにより解雇できるように思えます
しかし,企業(雇用主)と労働者の関係において企業の地位があまりにも強く,労働者の権利が侵害されていることから,雇用関係においては労働契約法,労働基準法という特別法が適用され,民法と比べて企業による解雇は厳しく制限されることになります。
したがって,企業が労働者を解雇する場合には,企業は慎重にならなければいけません。

解雇の種類

解雇というと,労働者の勤務態度が悪いことを理由とする解雇をイメージすることが多いのではないでしょうか。解雇というのは労働者側に落ち度がある場合に限られず,以下のような種類に分けることができます。

①普通解雇

労働者が病気や怪我で就労不能,勤務成績不良、職務の適格性の欠如等で労働者の労働能力が欠如していることを理由に行う解雇)

②懲戒解雇

労働者が遅刻・早退・欠勤,勤務態度不良等で企業の規律に違反したことを理由に行う解雇

③整理解雇

企業が経営難で余剰人員が発生している場合等の経営上の必要性を理由に行う解雇

解雇が有効と認められる事例

どのような場合に,解雇は有効とされるのでしょうか,解雇が有効とされた判決(最高裁判所第1小法廷判決平成6年9月8日 労働判例657号12頁/労経速報1548号3頁)の事実の概要は以下の通りです。

教諭Xが他の教員と比べて際立って遅刻が多く,入学試験のとき注意事項を聞き漏らし,担当教室の受験生の再試験を余儀なくさせ,教員研修会において社会奉仕活動をテーマに研究発表する旨の業務命令に従うことを拒否するなど,Y学園の方針および教育方針にことごとく反発してきたことを理由として解雇を行なったところ,教諭Xはこの解雇が不当であるとして,地位保全等の仮処分を申請しました。 Xは仮処分の申請前に,弁護士会等に宛てて文書を送付しており,そこにはY学園やその校長が不正行為や不当な労務管理を行なっていたような印象を与える記述や校長の人格を攻撃するような記述が含まれていましたが,Xはこれが真実と真実に足りる資料を持っていませんでした。さらに,Xはこの文書(以下,「本件文書」)の内容を週刊誌の記者に伝え,その後,Xの言い分を引用する内容の記事が掲載されることになりました。そのため,Y学園は,就業規則中における「勤務成績が良くないとき」(1号)「第2号に規定する外,その職務に必要な適格性を欠く場合」(3号),「その他前各号に準ずるやむを得ない事由がある場合」(5号)という普通解雇事由に該当することを理由に最初の解雇を撤回した上で,改めてXを解雇しました。

Xはこの解雇について争いましたが,最高裁判所は以下のような理由でこの解雇を有効としました。
「Xは,本件文書により,Y学園の学校教育および学校運営の根幹に関わる事項につき虚偽の事実を織り交ぜ,または事実を誇張歪曲して,Y学園および校長を非難攻撃し,全体としてこれを中傷誹謗したものといわざるをえない。さらにXの週刊誌記者に対する情報提供行為は,問題のある情報が同誌の記事として社会一般に広く流布されることを予見ないし意図してされたもの見るべきである。以上のようなXの行為は,校長の名誉と信用を著しく傷付け、ひいては上告人の信用を失墜させかねないものというべきであって、上告人との間の労働契約上の信頼関係を著しく損なうものであることが明らかである。したがって,本件解雇は権利の濫用に該当しない。」

この判決の事案は,労働者であるXの行為がY学園との信頼関係を著しく損なったため,本件解雇を有効したケースといえます。

企業で解雇を行うことのハードル

労働基準法20条1項本文では,解雇予告を少なくとも30日前にするか,30日分以上の平均賃金の支払いを要求しています。

労働契約法16条は,解雇が
①客観的に合理的な理由を欠き,
②社会的相当であると認められない場合には,
権利の濫用として無効となるとしています。

①が指す客観的合理性とは労働者の労働能力の欠如,規律違反行為の存在,経営上の必要性など,解雇を理由として合理的と考えられる事情が存在すること,
②が指す解雇の社会的相当性とは,それらの事情の内容・程度,労働者側の情状,不当な動機・目的の有無,企業側の事情や対応,他の労働者への対応例との比較,解雇手続きの履践など,当該解雇にかかる諸事情を総合的に勘案し,労働者の雇用喪失という不利益に相応する事情が存在していることをいうものとされています。
この解雇要件は,解雇については生活の糧を失うなど労働者とその家族の生活に重大な影響を及ぼすことを考慮して企業による解雇を大きく制約するために課された要件ですので,裁判所が解雇要件を満たすと安易に認定することはありません。さらに,解雇要件を満たすと立証しなければならないのは企業であり,企業が立証できなければ解雇要件が満たされていないとして解雇は無効となります。

したがって,企業は,解雇要件を満たすと裁判所が認定してくれるような証拠集めをしなければなりません。

これは不当解雇にあたる?解雇理由に関する基準

では,どのような場合に解雇要件を満たすと判断されるのでしょうか,以下では解雇理由に関する基準について説明いたします。

病気やケガによる解雇の場合

労働者が病気やケガにより労働能力を失って働くことができない状態になっていることは解雇の合理的な理由となり得ます。しかし,労働者に回復可能性があるのにそれを考慮せずに解雇した場合や,休職・業務軽減など解雇を回避するような手段をとっていなければ解雇は無効となる可能性が高いです。

規律違反による解雇の場合

度重なる遅刻・早退・欠勤,勤務態度不良,職場規律に反する非違行為など労働者の規律違反行為も,解雇の合理的理由となり得ます。ただし,裁判所は,企業側の対策状況,平素の勤務成績,従前の従業員の扱い等の労働者にとって有利な事情を考慮して総合的に解雇の合理性・相当性を判断する傾向にあります。

不当解雇と判断された場合の企業のリスク

不当解雇と判断された場合,企業はどのようなリスクを負うのでしょうか,以下では,リスクとその対策を説明いたします。

多額の金銭の支払い

不当解雇となれば雇用契約が継続していたことになるので,今までの未払い賃金と遅延損害金を支払わなければならず,特に遅延損害金は紛争期間が長期化すればするほど,膨れ上がっているため,非常に多額になる可能性があります。

就業規則上での記載内容の確認

基本的に解雇事由については就業規則に記載する必要があります(労働基準法89条3号)。そのため,就業規則に解雇事由がきちんと定めているか確認することが重要となります。

証明を求められた場合には提示の必要性

解雇された労働者が企業に対して,解雇理由等を記載した証明書を交付するように請求した場合,企業は遅滞なく証明書を交付しなければなりません(労働基準法22条1項及び2項本文)。
この証明書において企業は解雇理由を具体的に記載する必要があります。

 

従業員対応に関するトラブルは弁護士にご相談ください

従業員は労働基準法や労働契約法等によって保護されているため,企業が安易に従業員を解雇等すると,後々紛争となった場合,企業にとって不利な結果となるリスクがあります。そのため,弁護士に相談することによってそのようなリスクを回避しやすくなります

従業員の対応にお困りであれば,一度弁護士にご相談ください。