就業規則に関する基礎知識と運用に当たって注意すべきポイント

皆様の会社では、就業規則は適切に策定・運用されているでしょうか。
本記事では、企業の多くに存在する就業規則に関し、基礎知識と運用に当たって注意すべきポイントを説明していきます。

就業規則に関する基礎知識

まずは、就業規則に関する基礎知識を確認しましょう。

就業規則とは

就業規則とは、労働者の就業上遵守すべき規律および労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称¹をいいます。このような定義を前提にすると、必ずしも「就業規則」というタイトルの文書でなくとも、労働基準法、労働契約法等のいう「就業規則」に該当します。労働条件や職場規律を定めたもので、内部文書ではなく労働者に提示することを想定している規則と言えるものは、どのような名称であっても「就業規則」に該当することとなります²。

本来的には、労働者の就業上遵守すべき規律および労働条件は、企業と労働者とが締結する個別の労働契約によって定められることとなります。しかし、多数の労働者を共同させる事業においては、労働条件を公平・統一的に設定し、かつ職場規律を規則として設定することが、効率的な事業経営のために必要となります³。

そこで、就業規則に定めた労働条件が「合理的」で、かつ、それが労働者に「周知」される限り、かかる労働条件が労働契約の内容となることが定められています(労契法7条本文)。

このように、就業規則に定められた労働条件は、労働者個人の個別の合意がなくとも労働契約の内容となり、労使の双方を拘束することとなります。

就業規則に定める事項

就業規則に定める労働条件に限界はありませんが、労働契約におけるルールを労働条件として定める場合には、労基法上、必ず記載するべき事項が法定されています(労基法89条各号)。法定の記載事項を必要的記載事項といい、さらに、必ず定めることが必要な絶対的記載事項(1~3号)、必ずしも定める必要のない相対的記載事項(3号の2~10号)に分類されます。

これに対し、労働条件として定める場合でも、記載するか否かは使用者に委ねられている事項を任意的記載事項といいます。

絶対的記載事項

労基法89条1~3号に定められている事項が、絶対的記載事項です。

⑴「始業及び就業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交代に就業させる場合においては就業時転換に関する事項」(1号)

「始業及び就業の時刻」については、当該事業場における所定労働時間の開始時刻と終業時刻を定め、「休憩時間」については、休憩時間の長さ、休憩時間の与え方等を定め、「休日」については、休日の日数、与え方(…)のほか、休日の振り替え、代休等の制度がある場合はそれらの制度を定め、「休暇」については、労基法上与えることを義務付けられている年次有給休暇や産前産後の休暇等のほか、育児・介護休業法に基づく育児休業および介護休業や任意に与えることとしている休暇(夏季休暇、年末年始休暇、…等)も含まれ、それらの制度を設けている場合には就業規則に具体的に記載しなければなりません⁴。

⑵「賃金(臨時の賃金等を除く。…)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」(2号)

「賃金(臨時の賃金等を除く。…)の決定、計算及び支払の方法」については、賃金ベースまたは賃金額そのもののことではなく、学歴、職歴、年齢等の賃金決定の要素あるいは賃金体系等、賃金の決定及び計算の方法ならびに月給制、日給制、出来高払い制等の支払の方法をいいます⁵。「昇給に関する事項」とは、昇給期間、昇給率その他昇給の条件等をいいます⁶。

⑶「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」(3号)

同号の「退職」は、解雇を含め労働契約が終了するすべての場合を指すと解されており、「退職に関する事項」とは、任意退職、解雇、定年制、契約期間の満了による退職等、労働者がその身分を失うすべての場合に関する事項をいいます⁷。

相対的記載事項

相対的記載事項は、使用者が各号に列挙された制度を用いている場合には、就業規則に記載することが必要な事項です。「定めをする場合」(労基法89条3号の2ないし10号)とは、明文の規定を用いている場合はもちろん、不文の慣行又は内規として実施されている場合も含みます⁸。

⑴ 退職手当(3号の2)

本号にいう「退職手当」とは、①労使間において、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明確になっていること、②その受給権は退職により在職中の労働全体に対する対償として具体化する債権であることの要件を満たすものであれば、支給形態は問いません。そして、退職手当制度があるのであれば、㋐適用される労働者の範囲、㋑退職手当の決定、計算及び支払の方法、㋒退職手当の支払いの時期について、就業規則に規定しておかなければなりません⁹。

⑵ 臨時の賃金等(4号)

労基法24条2項ただし書きで定める臨時に支払われる賃金、賞与及び労基法施行規則8条各号に掲げる賃金のことをいいます¹⁰。労基法施行規則8条各号の事項とは、精勤手当(1号)、勤続手当(2号)、奨励加給又は能率手当(3号)を指します。

⑶ 表彰及び制裁(9号)

労働者にとって不利益となる、制裁について説明します。
制裁の「種類及び程度」を定める必要があり、制裁の種類としては、けん責等の軽いものから懲戒解雇のような重いものがあります。制裁の程度とは、一定の事由に該当する場合の制裁の程度をいい、制裁の事由との間の均衡を十分考慮して規定されなければなりません¹¹。

⑷ その他

労働者の食費、作業用品その他の負担(5号)、安全及び衛生(6号)、職業訓練(7号)、災害補償及び業務外の傷病扶助(8号)等について、定めをする場合には、その旨を就業規則に記載する必要があります。

任意的記載事項

使用者が任意に記載することができる性質のものです。

具体例としては、就業規則の制定趣旨ないし根本精神を宣言した規定、就業規則の解釈および適用に関する規定等です¹²。

就業規則を整備することの重要性

冒頭と重複しますが、就業規則に定められた労働条件は労働者個人の個別の合意がなくとも労働契約の内容となり、労使の双方を拘束します。

そうした理由から、労務管理の大前提として、就業規則を整備することは非常に重要です。

作成義務

「常時10人以上の労働者を使用する使用者」は、「就業規則を作成」しなければなりません(労基法89条)。このように、労基法上、就業規則の作成義務が定められています。

ここでいう「作成」とは、労基法89条に定める必要的記載事項をすべて含んだ規則を書面に作成することをいいます。正社員、臨時社員、パート社員、嘱託社員などの従業員の種別が設定されている場合には、それぞれにつき別個の就業規則を作成することは差し支えありません。しかし、一部の労働者を就業規則の適用から除外しながら、それら労働者のための別規則を作成していない場合には、作成義務の違反が成立することとなります¹³。なお、作成義務に違反した場合、30万円以下の罰金が科されることがあります(労基法120条1号)。

労使トラブルの予防

労使トラブルが発生する大きな原因は、労使の間で労働契約の認識に齟齬があることです。そこで、労働契約の内容たる就業規則が過不足なく規定されていれば、労働契約の認識に齟齬が起きる可能性を減らすことができ、不要な労使トラブルを未然に防ぐことができます。

ひな形利用をすることによるリスク

前述したように、就業規則には絶対的に記載する必要がある事項があり、ひな形使用の有用性自体は高いと思われます。

しかし、就業規則は労働契約の内容となるものであるため、会社の個別事情を適切に反映したものでなければ、むしろ企業活動を阻害してしまいかねません。ひな形が想定している労働契約の内容と、自社で運用したい労働契約の内容の違いを把握したうえで、ひな形を適宜修正する必要があることとなります。

就業規則の運用に向けた流れ

それでは、就業規則の運用に向けた流れを説明します。

就業規則の作成

まずは、前述の必要的事項を記した就業規則を作成します。

作成後、就業規則の作成または変更について、過半数組合がある場合にはその組合の、過半数組合がない場合には過半数代表者の意見を聴かなければなりません(労基法90条1項)。ここでいう「意見を聴く」とは、文字どおり意見を聴けばよいとの意味であって、同意をするとか協議をするという意味ではありません¹⁴。

就業規則の届出

次に、作成した就業規則を所轄の労働基準監督署に届け出ます。

このとき、労働者を代表する労働組合または労働者代表の意見を記した書面を添付する必要があります(労基法90条2項)。仮に、労働者を代表する労働組合または労働者代表が意見表明を拒み、または「意見を記した書面」の提出を拒む場合は、「意見を聴いたことが証明できる限り」受理されるものとされています¹⁵。

就業規則の周知

届出後、使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所に掲示する等して、労働者に周知させなければなりません(労基法106条)。

就業規則の作成・改定を弁護士に依頼するメリット

以上見てきたように、就業規則は労働契約、すなわち会社と労働者との間の契約そのものであり、一般的な契約書チェックと同じように細心の注意を払う必要があるものです。

最後に、就業規則の作成・改定を弁護士に依頼するメリットをお伝えします。

適正な運用に則ったルール策定

就業規則が、会社と労働者との間の労働契約である以上、当事者の実情に合わせた内容とすることがもっとも肝要です。現在の制度がどのように運用されているのか、これからどのように運用していきたいのかを十分に把握し、それを過不足なく反映することが、会社としての利益につながるものと考えます。専門家の立場から、業界や会社規模等様々な事情をふまえた適正な運用を適切にルール化することをお手伝いいたします。

未然の労使トラブルの予防

数々の労使紛争に携わってきた実績をもとに、現行の就業規則から考えうる労使トラブルを過不足なく見抜き、そうした労使トラブルが起こらない、あるいは起こったとしても最小限の負担に抑えることが可能です。

就業規則の作成・改定については弁護士にご相談ください

以上、就業規則は会社における根本的なルールですが、その作成や改定には法的制約が多くあります。特に、労働者にとって不利益な変更を伴う場合には、多くの判例が蓄積しており、専門的な判断が必要となります。

就業規則の作成、改訂、チェック等に関しては、ぜひ一度当事務所にご相談ください。

  • ¹ 労務行政研究所編「実務コンメンタール労働基準法・労働契約法(第2版)」479頁(労務行政,2020年)
  • ² 水町雄一郎「水町詳解労働法[第2版]公式読本 理論と実務でひも解く労働法Q&A300」45頁(日本法令,2022年)
  • ³ 菅野和夫「労働法(第十二版)」196頁(弘文堂,2019年)
  • ⁴ 前掲¹ 労務行政研究所編484頁
  • ⁵ 前掲¹ 労務行政研究所編486頁
  • ⁶ 前掲¹ 労務行政研究所編486頁
  • ⁷ 前掲¹ 労務行政研究所編486頁
  • ⁸ 前掲¹ 労務行政研究所編486頁
  • ⁹ 前掲¹ 労務行政研究所編487頁
  • ¹⁰ 前掲¹ 労務行政研究所編487,488頁
  • ¹¹ 前掲¹ 労務行政研究所編490頁
  • ¹² 前掲¹ 労務行政研究所編483頁
  • ¹³ 前掲³ 菅野198頁
  • ¹⁴ 前掲³ 菅野201頁
  • ¹⁵ 前掲³ 菅野201頁