育児・介護休業法の改正を弁護士が解説!就業規則の整備は必要?

育児・介護休業法が2021年6月に改正され、2022年4月からその一部が施行されることになりました。以下では、4月から施行される改正点について説明します。

「育児・介護休業法」の基礎知識

育児・介護休業法というものとは何か、なぜ今回改正されることになったのかについて説明します。

育児・介護休業法とは

育児・介護休業法には長い歴史があります。1972年に女性の育児休業の実施等を事業主の努力義務にとどめて定めた勤労婦人福祉法が制定されました。その後、1975年には国・地方公共団体の施設等の看護師、保母に対して育児休業を保障する「義務教育諸学校等の女子教育職員及び医療施設、社会施設等の看護婦、保母等の育児休業に関する法律」が制定されました。1985年に勤労婦人福祉法が改正され、女性の仕事と家庭の調和を図ることを目的としつつ、企業が女性労働者に対して育児休業を与えることを努力義務にとどめる男女機会均等法が成立しました。すなわち、企業は男女の従業員に対して育児休業を与えなければならないという義務ではなく、あくまで与えるように努力することしか求められていませんでした。しかし、1989年に戦後最低の出生率となり、そのことによって、今までの政策が見直され、1991年には1歳未満の子を養育する男女労働者に育児休業の権利を保障する「育児休業等に関する法律」が制定されました。さらに、日本の高齢化は進展していき、政府は介護休業を制度化しなければならないと考え、1995年に家族介護のための介護休業制度を導入する法改正をした結果、育児・介護休業法という法律となりました。

つまり、育児・介護休業法は男女労働者が仕事と家庭を両立できるようにするために制定された法律です。

育児・介護休業法の改正に至った背景

2021年2月26日、第204回通常国会で「育児休業、介護休業等または家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案」が上程されました。この改正法案は、2021年6月3日に可決成立し、2021年6月9日に公布されました。その結果、育児・介護休業法が改正されました。法律提出の目的は出産や育児によって従業員が企業を辞めることを防ぎ、男女が仕事と育児等が両立できるようにするために子供が生まれる前後に柔軟に育児休業の枠組みを創ったり、育児休業を分割で取得できるようにする規定を整備したり、企業に対して個々の従業員に対して育児休業について周知・意向を確認するように義務付けること等の措置を講じることでした。

育児・介護休業法改正に関する施行スケジュール

改正された育児・介護休業法は2022年4月1日から段階的に施行されることになっています。

具体的には2022年4月1日から

  1. 育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者への個別の周知・意向確認義務
  2. 有期労働者の要件の緩和
  3. 出生時育児休業(産後パパ育休)制度の創設と育児休業の分割取得(2022年10月1日から)
  4. 育児休業の分割取得
  5. 育児休業の取得の状況の公表の義務付け(2023年4月1日から)

がそれぞれ法律として施行されることになります。

2022年4月施行

2022年4月に施行される①育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者への個別の周知・意向確認義務について三つに分けて説明します。

雇用環境の整備

育児休業を取得しやすい雇用環境の整備とは、研修、相談体制の整備、育児休業の制度・育児休業取得事例の情報提供等から一つ選択して実行することが挙げられます。

個別への周知・意向確認義務

本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た従業員に対し⑴1育児休業・産後休業に関する制度、⑵育児休業。産後育休の申し出先、⑶育児休業給付に関すること、⑷労働者が育児休業・産後育休期間について負担すべき社会保険料の取り扱いについて、原則として(ⅰ)面談(オンライ面談を含む。)又は(ⅱ)書面の交付により、従業員が希望した場合は(ⅲ)FAX、(ⅳ)電子メール等により個別に周知し、従業員がどのようにするかについての意向を確認しなければなりません。

有期雇用労働者の要件緩和

改正前までは有期労働者の育児休業は(ⅰ)引き続き雇用された期間が1年以上、(ⅱ)1年6ヶ月までの間に契約満了することが明らかでないことことが要件となっており、介護休業の場合は(ア)引き続き雇用された期間が1年以上、(イ)介護休業開始予定日から93日経過日から6ヶ月を経過する日までに契約が満了することが明らかでないことが要件となっていました。しかし、今回の改正で育児休業の場合も引き続き雇用された期間が1年以上という要件を撤廃されました。つまり、育児休業及び介護休業について上記の(ⅰ)及び(ア)の要件が撤廃されたということです。

2022年10月施行

2022年10月に施行される③出生時育児休業(産後パパ育休)制度の創設と育児休業の分割取得、④育児休業の分割取得について以下で説明します。

出生時育児休業(産後パパ育休)制度の創設と育児休業の分割取得

出生時(産後パパ育休)とは育休制度とは別に取得可能なものです。その内容は、子供が生まれた後、8週間以内に4週間まで育休を取得することが可能で、労使協定で法を上回る取り組みを定めている場合等を除いて休業の2週間前までに申出をすれば取得可能となります。そして、育児休業も産後パパ育休も分割して2回取得可能となりました。

2023年4月施行

2023年4月から施行される⑤育児休業の取得の状況の公表の義務付けについて説明します。

育児休業取得状況の公表の義務化

従業員数が1000人を超えている企業については育児休業等の取得状況を毎年1回公表することが義務付けられます。具体的な公表内容としては「男性の育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」です。これらの取得率の算定期間は公表を行う日が属する事業年度の直前の事業年度となります。公表方法としてはインターネット等で外部の人間が閲覧できる方法が求められます。

育児・介護休業法の改正にあたり企業が注意すべきポイント

今回の育児・介護休業法の改正によって企業が注意すべきポイントについて以下で説明させて頂きます。

就業規則の見直し・整備

まずは、改正された育児・介護休業法について従業員に周知するために就業規則に改正内容と同内容の規定を定めることです・すなわち、出生児育児休業を含んだ育児介護休暇についてどのような場合取得できるのか、どのような形で取得できるのかを改正内容に沿って定めなければなりません。

従業員に向けた相談体制の整備

相談体制の整備の手段として従業員に個別に意向を確認するための窓口を設置することが考えられます。そして、窓口を設置したのであれば窓口がどこであるかについて従業員に周知しましょう。

今後の施行スケジュールを含めた計画立案

上記で説明した通り、改正された育児・介護休業法は段階的に施行されるのでそのスケジュールに沿ってどのように企業として対応していくのか決めて計画を立案することが必須となっていきます。

企業経営に関する体制整備のご相談は弁護士へ

今回は育児・介護休業法の改正について説明しました。今後も様々な法律が改正されることによって企業が整備すべき体制は変わっていくと思います。専門家である弁護士に相談することによって適切な体制整備が可能となります。

企業運営に関する体制整備についてお悩みの方はぜひ西村綜合法律事務所へご相談ください。