このページでは、労災事故において「こちらにも不手際や過失があったかもしれない」と感じている方に向けて、①労災保険と過失の関係、②会社に対する損害賠償で過失がどのように影響するのか、③過失割合の決まり方と対処法、④実際に受け取れる金額への影響までを一通り解説します。

単なる制度説明ではなく、「どこで損をしやすいか」「どこを押さえれば不利を避けられるか」に重点を置いて解説いたしますのでお役に立てますと幸いです。

労災で従業員側に過失があると不利になる?

労災保険は減額されない(無過失補償)

まず前提として、労災保険は「労働者に過失があっても原則として減額されない制度」です。
例えば、「注意不足でケガをした」「手順を一部省略してしまった」という事情があっても、治療費や休業補償などは通常どおり支給されます。

これは、労働災害が「個人のミス」だけでなく、「職場環境・業務内容そのもの」に起因することが多いという考え方に基づいています。

なお、労災保険からは治療費や休業補償は支給されますが、事故による精神的苦痛に対する『慰謝料』は一切支払われません。慰謝料を獲得し、適正な補償を受けるためには、労災保険とは別に会社に対して損害賠償請求を行う必要があります。

損害賠償では過失相殺で減額される可能性がある

一方で、会社に対して損害賠償請求を行う場合は話が変わります。
ここでは民法の考え方が適用されるため、「労働者にも一定の落ち度がある(過失がある)」と判断されると、その割合に応じて賠償額が減額されます。これが過失相殺です。

例えば、会社側に責任がある事故でも、労働者側に3割の過失があると判断されれば、最終的に受け取れる賠償額は7割に減る可能性があります。

「過失がある=会社側へ請求できない」は誤り

ここでよくある誤解が、「自分にもミスがあったから請求できないのではないか」というものです。
結論として、これは誤りです。

過失があっても請求自体は可能であり、問題になるのは「どの程度減額されるか」です。
むしろ、現場では会社側にも安全管理上の問題があるケースが多く、結果として大きく減額されないことも少なくありません。

労災の過失相殺とは?賠償額が減る仕組み

過失相殺の基本(割合に応じて減額)

過失相殺とは、損害の発生につき被害者にも落ち度(過失)がある場合に、損害の公平な分担の見地から、損害賠償額を調整する仕組みです。

例えば、損害額が1000万円と評価された場合でも、
・労働者の過失が20% → 800万円
・労働者の過失が50% → 500万円
といった形で減額されます。

慰謝料・逸失利益・休業損害への影響

過失相殺は、以下の主要な損害項目すべてに影響します。
・慰謝料(精神的苦痛)
・逸失利益(将来の収入減少)
・休業損害(働けなかった期間の収入)

特に影響が大きいのは逸失利益です。後遺障害が残るケースでは、数百万円単位で差が出ることも珍しくありません。

実務上、過失割合が10%変わるだけでも、総額で数十万円〜数百万円の差になることがあります。
したがって、「過失があるかどうか」よりも、「何%と評価されるか」が極めて重要な争点になります。

過失割合はどう決まる?裁判における判断基準

会社の安全配慮義務違反の有無

労災事故の過失割合を考えるうえで、最も重要になるのは、会社が労働者を安全に働かせるための措置を取っていたかどうかです。これを「安全配慮義務」といいます。難しく聞こえますが、要するに、会社には「危ない作業をさせるなら、事故が起きないように準備・教育・管理をする責任がある」ということです。

例えば、プレス機械や切断機械を使う現場で、安全カバーや非常停止装置が壊れたまま放置されていた場合、労働者が一瞬手元を誤ってけがをしたとしても、「本人のミスだけ」とは言い切れません。そもそも、ミスが重大事故につながらないようにするのが安全装置の役割だからです。

また、高所作業であれば、安全帯や足場、手すりの有無が問題になります。転落事故が起きたときに、会社が「本人が注意していなかった」と主張しても、足場が不安定だった、命綱を使う体制が整っていなかった、現場責任者が確認していなかったという事情があれば、会社側の責任は重く見られます。

さらに、マニュアルの有無も重要です。危険な作業であるにもかかわらず、作業手順が口頭説明だけだった、古いマニュアルがあるだけで実際には誰も読んでいなかった、外国人労働者や新人にも同じように危険作業をさせていた、という場合には、会社の教育・管理体制に問題があると判断されやすくなります。

裁判では、「事故当日、労働者が何をしたか」だけではなく、「会社が事故を防ぐ仕組みを作っていたか」が見られます。ここを見落とすと、必要以上に自分の責任を重く考えてしまい、本来請求できるはずの損害賠償をあきらめてしまうおそれがあります。

労働者の不注意・手順違反の程度

他方で、労働者側の行動も当然に検討されます。裁判所は、会社の責任だけでなく、労働者本人がどのような行動を取ったのかも確認します。

例えば、「機械の電源を切ってから清掃する」という明確なルールがあり、何度も教育を受けていたにもかかわらず、電源を入れたまま手を入れてしまった場合には、労働者側の過失が問題になります。また、「立入禁止」と明示された区域に自分の判断で入った場合や、安全帯の着用が義務づけられているのに着用しなかった場合も、手順違反として評価される可能性があります。

ただし、ここで大切なのは、「ルール違反があった=全面的に労働者が悪い」とはならないことです。現場では、建前上のルールと実際の運用が違うことがよくあります。

例えば、マニュアル上は2人作業とされているのに、人手不足でいつも1人で作業していた。安全確認をする時間が必要なはずなのに、納期に追われて省略するのが当たり前になっていた。上司から「急げ」「止めるな」と言われ、危険を感じながら作業を続けざるを得なかった。こうした事情があれば、単に「手順を守らなかった本人が悪い」とは評価できません。

また、新人や経験の浅い労働者の場合、危険性を十分に理解していなかった可能性もあります。ベテランであれば危険を予測できた作業でも、入社間もない人に同じ水準の判断を求めるのは無理があります。裁判では、経験年数、担当業務、教育状況、当日の指示内容などを踏まえて、労働者の不注意がどの程度重いものだったのかが判断されます。

つまり、労働者側にミスがあったとしても、その背景を丁寧に整理することが重要です。「自分が悪かった」と感じる場面でも、実際には会社の管理不足や現場の無理な運用が事故の根本原因になっていることがあります。

実際の交渉では、会社側は「本人が勝手にやったことである」「マニュアルを読んでいない点に本人の過失がある」などと主張し、過失割合を5割〜7割などと大きく見積もって反論してくることも多くあります。しかし、建前上のマニュアルが存在しても、日々の業務で形骸化していれば、裁判所は会社側の責任を重く見る傾向にあります。会社側の主張を鵜呑みにせず、現場の実態を法的に構成し直すことが不可欠です。

教育・指示・現場環境の影響

過失割合を考えるうえでは、事故当日の一瞬だけを切り取るのではなく、その作業がどのような環境で行われていたのかを見る必要があります。ここは非常に重要です。

例えば、会社が「安全教育を行っていた」と主張しても、実際には入社初日に簡単な説明をしただけで、その後の教育がなされていなかったというケースがあります。あるいは、安全講習の記録はあるものの、現場で実際に使う機械や作業方法について具体的な説明がされていなかった場合もあります。このような場合、会社が形式的に教育をしていたとしても、事故防止に十分だったとは言いにくいでしょう。

賠償額の計算方法|過失相殺と労災給付の関係

計算順序(過失相殺→労災給付控除)

賠償額は一般に次の順序で計算されます。
①総損害額を算定
②過失相殺で減額
③労災給付を控除

この順序は重要で、どこで控除するかによって最終額が変わります。

順序を誤ると金額が変わる理由

仮に、労災給付を先に差し引いてから過失相殺をするとどうなるか。
例えば1000万円の損害から先に労災給付300万円を引いて700万円とし、その後に2割減額すると560万円になります。

一方で、正しい順序(過失相殺→控除)で計算すれば、800万円から300万円を引いて500万円です。

一見すると後者の方が低く見えますが、法律上、労災給付は「労働者が負担すべき過失部分」をカバーするためのものではないとされています。そのため、まずは全体の損害額から労働者の過失分を引き(過失相殺)、「会社が支払うべき賠償額」を確定した上で、そこからすでに受け取った労災給付を差し引くのが正しいルールです。実際には給付の内訳や費目ごとの対応関係によって差が生じるため、単純比較はできません。重要なのは、「計算の前提がずれると結論も変わる」という点です。

そのため、実務では、会社側が自分たちに有利な独自の計算式で示談を要求してくることもあるため、提示された金額がどの順序で算出されているのかは必ず確認する必要があります。

費目ごとに控除される点に注意

労災給付は、まとめて一括で差し引かれるわけではありません。
例えば、休業補償は休業損害から、障害補償は逸失利益から、といった形で、それぞれ対応する項目ごとに控除されます。

この区別が曖昧なまま計算されると、本来控除されるべきでない部分まで差し引かれてしまうことがあります。
実務では「とりあえず総額から引く」という乱雑な処理がされるケースもあり、そのまま合意してしまうと、本来より低い金額で示談してしまうリスクがあります。

賠償額の計算は見た目以上に技術的です。提示された数字だけで判断せず、「どういう計算過程でその金額になっているのか」を確認することが重要です。

過失相殺で損しないためのポイント

会社の責任(安全配慮義務)を見落とさない

自分のミスに意識が向きすぎると、会社の問題を見落としがちです。しかし実際には、設備・教育・指示体制など、会社側の責任が大きいケースが多くあります。

重要なのは、「自分のミス」と「会社の管理不足」を分けて考えることです。会社側から「本人の不注意です」と説明されても、それをそのまま受け入れる必要はありません。事故が起きた背景に、設備不良、教育不足、人手不足、無理な作業指示がなかったかを確認することが大切です。

証拠(作業手順・指示・環境)の確保

過失割合は、感覚ではなく証拠で決まります。事故当時の現場状況や会社の指示内容を示す資料があるかどうかで、結果が大きく変わります。

具体的には、作業マニュアル、安全教育の資料、朝礼やミーティングでの指示内容、現場の写真、機械や設備の状態、作業日報、LINEやメールでの指示記録などが重要です。同僚が同じ作業方法をしていた、上司が危険な作業方法を黙認していた、といった事情があれば、同僚の証言も大きな意味を持ちます。

特に事故直後は、現場が片付けられたり、設備が修理されたりして、事故当時の状態が分からなくなることがあります。そのため、可能であれば早い段階で写真や記録を残しておくべきです。後から「証拠がない」となると、会社側の責任を十分に主張できなくなるおそれがあります。

また、会社に対する損害賠償請求には消滅時効があります。そして、時間が経てば経つほど、現場の改修が進んだり、当時の関係者が退職したりして、会社側の責任を裏付ける決定的な証拠が失われてしまいます 。事故後はご自身の治療が最優先ですが、並行してなるべく早めに弁護士へご相談いただき、証拠保全に向けた初動対応を取ることを強くお勧めします。

弁護士に相談する意義

労災の過失割合や賠償額は、一般の方が自分で正確に判断するのは難しい分野です。会社側から「あなたにも過失があるので、この金額になります」と説明されると、それが正しいように感じてしまうかもしれません。しかし、実際には会社側に有利な計算や評価がされているケースもあります。

特に、後遺障害が残った場合や長期間働けない場合、過失割合が少し違うだけで、最終的な賠償額に大きな差が出ます。10%の違いでも、数十万円から数百万円変わることがあります。

「自分にも悪いところがあったから」と早めに示談してしまうと、後からやり直すことは簡単ではありません。提示された過失割合や賠償額に納得できない場合はもちろん、自分では妥当か判断できない場合にも、専門家に相談することが重要です。労災事故では、早い段階で方針を誤らないことが、その後の金銭的な結果に直結します。

労災に遭ってしまったら西村綜合法律事務所へご相談を

労災事故では、「自分にも過失があるのではないか」という不安から、本来請求できるはずの権利を見送ってしまうケースが少なくありません。
しかし実際には、会社側の責任が適切に評価されていないことも多く、過失割合や賠償額は見直しの余地があります。

西村綜合法律事務所では、労災事故に関する損害賠償請求について、過失割合の検討から証拠整理、交渉・訴訟まで一貫して対応しています。
事故後の対応でお悩みの方は、一度ご相談ください。