労災保険を弁護士が解説!申請の流れや休業補償の手続きについて

業務上あるいは通勤中に、労働者が負傷等をした場合には、当該労働者はそれに対する補償を受けることができ、この制度が労災保険制度です。

本記事では、労災に関する基本的知識や手続の流れを説明します。

労災に関する基礎知識

まずは、労災に関する基礎知識を確認しましょう。

労災とは

労災とは、労働災害のことをいい、業務災害、通勤災害の2つが規定されています(労働者災害保険法(以下、「労災法」といいます。)7条1項各号)。

業務災害とは、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡」(同1号)、通勤災害とは、「労働者の通勤による負傷、疾病、障害または死亡」(同2号)と定義づけられています。

労災申請の可能性のある例

労災申請の行われる典型的な例としては、工場において作業用機械に手足が巻き込まれた事故、建設業における転落事故等が考えられます。また、長時間労働等による脳や心臓の疾患、精神障害についても、「業務上」の疾病と認められる可能性があります。

労災の申請手続の流れ

次に、労災の申請手続の、具体的な流れを説明します。

従業員から労働災害に関する報告を実施

労働災害が発生した場合、使用者は、当該従業員から事故について報告を受けます。使用者は、当該労働者から事故の内容を具体的に聞き取ります。

使用者が労基署へ労災報告・請求書の提出

使用者は、業務災害によって労働者が死亡した場合、または負傷により休業が必要となる場合には、所轄の労基署へ報告書を提出しなければなりません(労働安全衛生規則97条)。この報告義務を懈怠した場合や、虚偽の報告を行った場合(いわゆる「労災隠し」)には、50万円以下の罰金が科されることがあります(労働安全衛生法120条5号・100条3号)。

労災認定の請求権者は、補償を受けるべき労働者又はその遺族、葬祭を行う者(労災法12条の8参照)とされていますが、請求に当たっては請求書を作成する必要があり、請求書に記載する事項の中には、使用者が証明しなければならない事項もあるため、使用者が請求を代行することも一般的に行われています。

なお、使用者は、請求にかかる事故を認識していない場合や、使用者の認識と異なる場合には、そうした事項を証明する必要はありません。使用者による証明がなくとも、労災認定の請求は可能です。

次に、労災保険給付には、以下の項目があります。

療養(補償)等給付¹

療養(補償)等給付には、「療養の給付」と「療養の費用の支給」とがあります。

「療養の給付」は、労災病院や労災保険指定医療機関・薬局等で、無料で治療や薬剤の支給などを受けられます(現物給付)。

「療養の費用の支給」は、近くに指定医療機関等がないなどの理由で、指定医療機関等以外の医療機関や薬局等で療養を受けた場合に、その療養にかかった費用を支給する現物給付です。

給付の対象となる療養の範囲や期間はいずれも同じです。療養(補償)等給付は、治療費、入院料、移送費など通常療養のために必要なものが含まれ、傷病が治ゆ(症状固定)するまで行われます。

なお、療養の給付については現物給付であることから、請求権の時効は問題とはなりませんが、療養の費用は、費用の支出が確定した日の翌日から2年を経過うすると時効により請求権が消滅するため、注意が必要です。

休業(補償)等給付²

労働者が、業務または通勤が原因となった負傷や疾病による療養のため労働することができず、そのために賃金を受けていないとき、その第4日目から休業補償給付(業務災害の場合)、複数事業労働者休業給付(複数業務要因災害の場合)または休業給付(通勤災害の場合)が支給されます。

給付に当たっては、①業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のため、②労働することができないため、③賃金を受けていないという3要件を満たす必要があります。

また、休業の初日から第3日目までを待機期間といい、この間は業務災害の場合、事業主が労働基準法の規定に基づく休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行うこととなります。この点、複数業務要因災害・通勤災害の場合には、事業主の補償責任についての法令上の規定はありません。

休業(補償)等給付は、療養のため労働することができないため賃金を受けない日ごとに請求権が発生します。その翌日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅します。

障害(補償)給付³

業務または通勤が原因となった負傷や疾病が治ったとき、身体に一定の障害が残った場合には、障害補償給付(業務災害の場合)、複数事業労働者障害給付(複数業務要因災害の場合)または障害給付(通勤災害の場合)が支給されます。

残存障害については、障害等級表に第1級から第14級まで細かく規定されており、その障害の等級に応じて、年金か一時金かの給付種別、給付額が定められています。

残存障害が、障害等級第1級から第7級に該当するときは障害(補償)等年金、障害特別支給金、障害特別年金が、障害等級第8級から第14級に該当するときは障害(補償)等一時金、障害特別支給金、障害特別一時金が支給されます。

障害(補償)給付は、傷病が治った日の翌日から5年を経過すると、時効により請求権が消滅します。

遺族(補償)等給付⁴

業務または通勤が原因で亡くなった労働者の遺族に対し、遺族補償給付(業務災害の場合)、複数事業労働者遺族給付(複数業務要因災害の場合)または遺族給付(通勤災害の場合)が支給されます。

遺族(補償)等給付には、遺族(補償)年金と遺族(補償)等一時金の2種類があります。

遺族(補償)等年金の受給資格者となるのは、被災労働者の死亡当時その収入によって生計(の一部)を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹ですが、妻以外の遺族については、被災労働者の死亡の当時に一定の高齢又は燃焼であるか、あるいは一定の障害の状態にあることが必要となります。

遺族(補償)等一時金は、①被災労働者の死亡の当時、遺族(補償)等年金を受ける遺族がいない場合、②遺族(補償)等年金の受給権者が最後順位者まですべて失権したとき、受給権者であった遺族の全員に対して支払われた年金の額及び遺族(補償)年金の額及び遺族(補償)等年金前払一時金の額の合計額が所定の額に満たない場合のいずれかの場合に支給されます。

いずれの給付も、被災労働者が死亡した日の翌日から5年を経過すると、時効によって請求権が消滅します。

介護(補償)等給付⁵

障害(補償)等年金または傷病(補償)等年金(後述)の受給者のうち、障害等級・傷病等級が第1級の者(全て)と第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」を有している者が、厳に介護を受けている場合、介護補償給付(業務災害の場合)、複数事業労働者介護給付(複数業務要因災害の場合)または介護給付(通勤災害の場合)が支給されます。

支給を受けるためには、①一定の障害の状態に該当すること、②現に介護を受けていること、③介護サービスを提供する施設に入所していないことの要件が必要となります。

介護(補償)等給付は、介護を受けた月の翌月の1日から2年を経過すると、時効によって請求権が消滅します。

そのほかの給付

⑴ 傷病給付⁶

業務または通勤が原因となった負傷や疾病の療養開始後1年6ヶ月を経過した日またはその日以後に一定の要件を満たす場合に、傷病補償年金、複数事業労働者傷病年金(複数業務要因災害の場合)または傷病年金(通勤災害の場合)が支給されます。

この場合の要件は、①その負傷又は疾病が治っていないこと、②その負傷又は疾病による障害の程度が一定の傷病等級に該当することです。

なお、傷病(補償)等年金が支給される場合には、療養(補償)等給付は引き続き支給されますが、休業(補償)等給付は支給されません。

⑵ 葬祭給付⁷

葬祭給付の支給対象は、必ずしも遺族とは限りませんが、通常は葬祭を行うのにふさわしい遺族となります。葬祭を執り行う遺族がなく、社葬として被災労働者の会社が葬祭を行った場合は、その会社に対して葬祭給付が支給されます。

この給付は、被災労働者の死亡の翌日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅します。

労働基準監督署による労災事故の調査

労働者から労基署に労災申請がされると、労災認定の当否や補償額の決定のために労基署が事業所に調査を行います(労災法45条以下)。

調査の対象は、労働者が労災申請した負傷や疾病等が業務を原因とするかどうか、すなわち業務起因性です。使用者側としては、社内資料等の関係書類の提出や当該労働者の上司や役員の事情聴取を求められることがあります。これに対して、使用者は、労基署長に対して意見書を提出して意見を申し出ることができます(労災法規則23条の2)。

労災申請については弁護士にご相談ください

以上が労災申請の大まかな流れとなります。労災認定をめぐって、労働者、使用者、労基署の間で認識が異なることも多く、判断の是正をめぐって訴訟手続を取らざるを得ないこともあります。

初期の労災申請の段階で、弁護士が介入することで手続の長期化や紛争の肥大化を防ぐことが可能です。労災が起こった場合には、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。

  • ¹ 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「療養(補償)等給付の請求手続」(R4.3)参照
  • ² 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続」(R4.3)参照
  • ³ 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「障害(補償)等給付の請求手続」(R4.3)参照
  • ⁴ 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「遺族(補償)等給付 葬祭料等(葬祭給付)の請求手続」(R4.3)参照
  • ⁵ 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「介護(補償)等給付の請求手続」(R4.3)参照
  • ⁶ 前掲²参照
  • ⁷ 前掲⁴参照