家族が仕事中に死亡してしまったら – 労災の遺族補償や損害賠償請求について解説します

労働災害によって家族が亡くなったら、本来は悲しみで手続きどころではありません。

しかし、家族がしっかり対応することで労働災害保険を受けとることができます。もちろん、即座に対応できない方がほとんどだとは思いますが、いずれの手続きにも時効が設定されているため、受け取る権利が消滅してしまう前に申請するようにしましょう。

この記事では、労災で死亡した場合に家族が対応すべきことについて説明していきます。

 

労災に関する基礎知識

まずは労災に関する基礎知識について見ていきます。

そもそも労災というのは、業務中または通勤中に労働者が負傷や疾病を負ったり、障害、または死亡することを指し、正式には「労働災害」と言います。

そして、労働災害によって亡くなった場合、遺族に対して給付されるのが労災保険です。

労災保険について

労災保険は、正式には「労働者災害補償保険」といい、国が企業に対して加入を強制している公的な保険となっています。通常、民間の生命保険や医療保険は、本人が契約し、自らの意思で保険料を支払っていますが、労災保険は本人を雇用している企業がすべての支払いを負担しています。よって、給与の中から労災保険分が引かれていないのは当然のことで、労災保険を請求できないなんてことにはなりませんのでご安心ください。

遺族が受け取ることができる給付

亡くなった方の遺族が受け取ることができる給付は全部で4種類あります。

以下にて、それぞれ詳しく見ていきましょう。

遺族(補償)年金

  • 受給資格者

遺族(補償)年金は、被災労働者の死亡時に、その収入によって生計を立てていた家族に対して支給されます。ここでいう生計を立てるというのは、被災労働者の収入で全額という意味ではなく、共働きで生計の一部を負担してもらっていた場合も含まれます。

  • 給付内容

遺族の数によって、遺族(補償)年金、遺族特別支給金、遺族特別年金が支給されます。

なお、受給権者が複数の場合は、下記金額を等分した額が各々の受け取れる金額です。

遺族(補償)年金:遺族数1人(※1)では、給付基礎日額の153日分

遺族特別支給金(一時金):一律300万円

遺族特別年金:遺族数1人(※1)では、算定基礎日額の153日分

(※1 遺族数2人では201日分 遺族数3人では223日分 遺族数4人では245日分)

  • 請求期限

時効により、被災労働者が亡くなった日の翌日から5年の経過で請求できなくなります。

遺族(補償)一時金

  • 受給資格者

遺族(補償)一時金は、受け取れる優先順位が定められています。

優先順位が高い順に、配偶者→被災労働者の収入により生計を維持していた子・父母・孫・祖父母→その他の子・父母・孫・祖父母→兄弟姉妹となっています。

  • 給付内容

遺族(補償)一時金は、遺族(補償)年金を受け取る遺族がいない場合、もしくは全員が失権している場合に、受給権者であった遺族全員への支給済み金額および遺族(補償)年金前払一時金(詳細は下記)の合計額が、給付基礎日額の1000日に満たない場合に支給される制度となっています。

つまり、そもそも遺族(補償)年金を受け取る遺族がいなかった場合は満額、それ以外の場合は既に遺族が受け取っていた金額を差し引いた金額が支給されるということです。

  • 請求期限

時効により、被災労働者が亡くなった日の翌日から5年の経過で請求できなくなります。

遺族(補償)年金前払一時金

  • 受給資格者

遺族(補償)年金前払一時金とは、遺族(補償)年金を受給することになった遺族が、1回に限って年金の前払いを受けられる制度です。よって、受給資格者は遺族(補償)年金と同一となります。

  • 給付内容

遺族(補償)年金前払一時金の額は、給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分の中から希望日数を選択することができます。

ただし、前払一時金が支給された場合、各月分の金額の合計額が、受け取った一時金の金額に達するまで支給が停止されることになっています。

  • 請求期限

時効により、被災労働者が亡くなった日の翌日から2年の経過で請求できなくなります。

葬祭料(葬祭給付)

  • 受給資格者

被災労働者のために葬祭を行った遺族に対して給付されます。

  • 給付内容

給付される金額は、31万5000円+給付基礎日額の30日分、もしくは、給付基礎日額の60日分の、いずれか多い金額給付されることになっています。

  • 請求期限

時効により、被災労働者が亡くなった翌日から2年の経過で請求できなくなります。

遺族補償給付・遺族給付の違い

業務中の事故が原因だった場合に給付されるのが「遺族補償給付」で、通勤中の事故が原因だった場合に給付されるのが「遺族給付」となっています。

遺族が行うべき手続き

上記は、あくまでも労働災害補償保険への保険金の請求手続きです。遺族はこの手続きの他に、会社に対して「損害賠償請求」ができないかを検討する必要があります。

亡くなってしまった要因の確認

亡くなってしまった要因が、会社側の加害行為によって引き起こされた場合、遺族は会社に対して損害賠償請求を行うことが可能です。また、会社ではなく、第三者によって引き起こされた場合も、その第三者に対して損害賠償請求を行うことができます。

労災保険の場合、保険金の請求であることから、亡くなった方の責任問題が追及されることはありません。規程に則った支払いがなされるだけです。

一方で、損害賠償請求をする場合は、亡くなった方の責任が生じる場合は、過失相殺についても考慮されることになります。過失相殺とは、どちら一方の責任ではなく、どちらにも過失があった場合、その割合に応じて損害額を調整することです。しかし、金額の算定は容易ではなく、事情次第では裁判手続きまでを見越す必要があります。

亡くなってしまった要因を確認しながら、その後どういった手続きにて解決を図るが良いかについては、専門家の意見を取り入れることを強くおすすめします。

各種給付の申請時の注意点

各種給付は申請によって受け取ることができますが、損害賠償と重複して受け取ることができない点に注意です。たとえば、先に各種給付を受給していた場合、受給した金額は会社側(第三者側)に対して請求できる損害賠償金から減額されることになっています。

これを「損益相殺」といいます。損害賠償請求を検討する場合、労災保険と損害賠償金は重複して受け取ることができない点を忘れないでおきましょう。

会社への損害賠償請求ができるケース

では、どういった場合に会社に対して損害賠償請求が検討できるのでしょう。

こちらには、会社側の「安全配慮義務違反」と「使用者責任」の2つの観点があります。

①会社側の安全配慮義務違反

会社側は、すべての労働者に対して、生命や身体などの安全を確保しながら労働できる環境を整える義務を負っていて、これを安全配慮義務といいます。

会社側がこの安全配慮義務に違反していた結果、労働者が死亡してしまった場合、安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任を負うことになります。たとえば、業務上使用していた機器の安全対策が不完全な状態だったために死亡事故を引き起こしてしまったとなれば、会社側の安全配慮義務違反が認められる可能性が強くなります。

②会社側の使用者責任

民法には、従業員を雇用している使用者には、従業員が業務中に他人に加えた損害を賠償する責任を負う、とする規定があります。これを使用者責任といいます。

たとえば、会社所有の機器使用時に、従業員のミスによって誤作動を起こしたことが原因で、他の従業員が死亡する事故を引き起こしてしまったとなれば、会社側の使用者責任を問える可能性が強くなります。ただし、使用者側が十分な監督をしていたにも関わらず起きてしまった事故の場合、会社に対して使用者責任を問うことはできません。

とはいえ、こういった判断には高度な専門知識が必須となりますので、お困りの方は弁護士への相談を強くおすすめします。

労災に関するご相談は弁護士法人西村綜合法律事務所へ

家族が亡くなった直後は、労災保険や損害賠償請求について考える余裕がないのは仕方がないことです。しかし、いずれの手続きにも時効が設定されていますし、労災の損害賠償請求には高度な専門知識が要求されることになります。個人で行うには負担があまりに大きすぎる上に、相手側にはほとんどのケースで弁護士が就いてくると言えます。

もし、労災に関して何かお悩みをお持ちであれば、まずは弁護士法人西村綜合法律事務所にお問い合わせください。当事務所が全力でサポートさせていただきます。