退職しないで労災申請や損害賠償をすることはできるのか弁護士が解説

不運なことにも労働災害に遭ってしまった場合、気になるのが退職しないまま労災申請や損害賠償請求をすることができるのか?といった点ではないでしょうか?また、会社に背いたと判断され、解雇されてしまう不安も拭い去ることはできません。

基本的に労災申請や損害賠償請求については、退職の有無によって影響を受けることはありません。

労災申請が認められるかどうかは、事故や疾病が労働によって引き起こされたものかどうかが重要です。また、退職していなかったとしても、労働者が労災で被った損害に対して、会社側に損害賠償請求することは可能です。というわけで今回は、退職しないで労災申請や損害賠償をすることはできるのかについて詳しく解説していきます。

労災申請・損害賠償の流れについて

まずは、労災申請・損害賠償の基本的な流れについて見ていきましょう。

労災申請について

労災申請とは、労働者が労働中に事故や障害を負ってしまった場合、それを労働災害として扱い、労災保険の給付や補償を受けるための手続きのことです。

労災申請の基本的な流れ

労災申請の基本的な流れは以下のとおりです。

①労働災害の発生を会社に報告する
②労災の請求書を労働基準監督署長宛に提出する
③労働基準監督署の調査が行われる
④労災給付の可否決定

必要な書類と申請期限

労災給付申請の際に必要な書類は、厚生労働省のホームページで入手できます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousaihoken.html

なお、申請期限は給付内容ごとに異なり、会社を休んだときの休業補償給付は2年、ケガなどにより後遺症が残った場合の障害補償給付等は5年となっています。

労災申請をする際は、申請期限を過ぎることがないよう注意してください。

損害賠償について

労災給付だけでは、被害内容のすべての補償をまかなえるわけではありません。状況に応じて決まった金額が支払われるだけです。労災給付だけでは補填されなかった実損害がある場合、会社などに対して損害賠償請求をするという選択肢があります。

損害賠償請求の基本的な流れ

労災を理由に会社などに損害賠償請求する場合、基本的には以下の流れで行われます。

①資料・証拠収集

②会社側との任意交渉

③裁判所などを利用した法的手続き

証拠の準備と請求の方法

会社に対して損害賠償請求をする際は、証拠を準備することが非常に重要です。場合によっては、裁判所を通じて「証拠保全」といった手続きを利用しなければなりません。

このように、個人が会社に対して損害賠償請求を行うハードルは高く、請求する際は弁護士へ依頼するのが賢明です。弁護士であれば、会社との任意交渉はもちろん、調停や裁判、ADR(裁判外紛争解決手続)といった手続きもすべて任せることができます。

労災・損害賠償請求と「解雇理由」との関係について

では次に、労災申請・損害賠償請求と「解雇理由」との関係について見ていきます。

労災・損害賠償請求が解雇理由になる可能性

原則として、労災申請・損害賠償請求を理由に従業員を解雇するのは違法となっています。

解雇理由としての労災・損害賠償請求の有効性

労災が起こった場合は、会社は必ず労働基準監督署に報告しなければなりません。

一方で、会社によっては、いわゆる労災隠しを行う場合があります。こういった場合、個人で労災申請を行うしかありませんが、一見すると労災申請を行うことが会社に敵対しているかのように捉えられてしまいます。損害賠償請求についても同じことが言えます。

しかし、労災申請・損害賠償請求を行うことを理由に、従業員を解雇することは認められていません。解雇理由としての有効性はないと言えるでしょう。

適法な解雇と不適法な解雇

そもそも適法な解雇というのは、以下2つの要件を満たしている必要があります。

①解雇へと至る客観的かつ合理的な理由
②解雇における社会通念上の相当性

この2つの要件を満たしていない場合は、不適法な解雇となり、すべて無効です。

労災や損害賠償請求を理由とする不当な処分について

労災申請や損害賠償請求を理由として、不当な処分を与えられる可能性があります。

不当な処分の例と対処方法

不当な処分のよくある例としては、ハラスメントや人事異動が挙げられます。

こうした不当な処分を受けている方は、早急に弁護士に相談することで対処しましょう。会社を辞めたくないのであれば、退職届などを出す必要は一切ありません。

労災の休業中や休業明けの解雇について

では次に、労災の休業中や休業明けの解雇についても見ていきましょう。

休業中の解雇について

労災で休業中の場合、休業中とその後30日間については、法律上の解雇制限があります。会社は従業員を解雇することができないため、安心して治療に専念してください。

解雇された場合の対応方法

もし、休業中であるにも関わらず解雇されてしまった場合は、不当解雇に該当する可能性があるため、早急に弁護士に相談することで対応しましょう。

休業明けの解雇について

休業明けから30日が経過している場合、解雇制限の適用はありません。よって、解雇における要件を満たしているのであれば、休業明けに解雇されてしまう可能性はあります。

解雇された場合の対応方法

休業明けに会社から解雇されてしまった場合は、解雇理由が適法なものであるかを確認する必要があります。しかし、解雇要件の解釈には高度な法律知識が求められることからも、早急に弁護士に相談することで対応するのがもっとも賢明です。

不当な退職勧奨につい

労災申請や損害賠償請求をすると、会社から解雇とまでは言われないまでも、「退職勧奨」を受けることがあります。

退職勧奨とは、会社が従業員に対して「辞めてほしい」と伝え、退職を勧めることを言います。勧奨後、従業員との合意があれば雇用契約は終了します。

不当な退職勧奨の具体的な例

退職勧奨は適法な方法で行わなければなりません。

不当な退職勧奨の具体的な例として、従業員に不当な心理的圧力を加えたり、従業員の名誉感情を不当に害すような発言があったとして、不法行為を認めた裁判例があります。

こうした威圧的な退職勧奨は、違法な退職強要であるばかりか、パワハラにも該当します。

不当な退職勧奨に対する法的手段

不当な退職勧奨があった場合、退職に応じる必要はありません。また、後になって自身の有利を担保するためにも、退職勧奨の内容は書面などで残しておきましょう。

なお、一度退職を拒否したにも関わらず、威圧的な退職勧奨をしてくる場合は、早急に弁護士に相談し、自身に代わって対応してもらうのが良いでしょう。

労災申請や損害賠償でお悩みの方は弁護士にご相談ください

会社が労災申請に消極的な場合、個人で申請を行うしかありません。

また、労災申請をしたからといって、受けた被害のすべてが補填されるわけではないのです。となれば、会社に対しての損害賠償請求も視野に入れなければなりません。しかし、労災申請や損害賠償請求を理由に解雇を迫られたり、退職勧奨をされたりといったことは現実に起こり得ます。

もし、労災申請や損害賠償請求をすることで、会社側から不当な扱いを受けているという方は、どうか当事務所にご相談ください。当事務所が、あなたの権利を守るために全力でサポートさせていただきます。