アルバイトやパートでも労災保険は使える?適用範囲や注意点を弁護士が解説

労災とは、労働者が業務上の事由により、怪我をしたり病気になることです。労災は社会が経済活動を行うことに伴い、不可避的に発生する不幸な事故ですが、怪我や病気が労災に基づくと認められる場合には、労災保険制度の適用により、一定の給付がなされることになっています。

では、パートやアルバイトといった正社員ではない労働者に労災が生じた場合でも、保険金の支払いを請求することは可能なのでしょうか。このページでは、雇用形態別での労災対応に関する基礎知識についてご説明します。

 

労災保険の適用の判断にかかわる基本条件

適用事業・適用範囲

労災保険制度は、労災保険法(正式名称は「労働者災害補償保険法」といいます)という法律によって規定されています。

労災保険法第3条1項は、「この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする。」と規定しています。すなわち、労災保険は、原則的に、業種や規模、雇用形態にかかわらず、全ての労働者に適用されることになります。

これは、労働者が業務上の事由または通勤によって負傷したり、病気に見舞われた場合に、被災労働者や遺族を保護するという労災保険の趣旨に基づくものです。

一方、労災保険と同じ労働保険として、雇用保険というものが存在します。雇用保険は、労働者が失業した場合に、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、再就職を促進するため必要な給付を行うものであり、労災保険とは制度の目的、趣旨が異なっています。

そのため、雇用保険の場合は基本的には、

  1. 31日間以上の雇用見込みがあること
  2. 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  3. 学生ではないこと

といった要件を満たす場合に加入する必要が生じ、労災保険とは加入の要件が異なっています。

適用除外となるケース

労災保険法第3条2項は、例外として、国の直営事業及び官公署の事業(ただし、労働基準法別表第一に掲げる事業を除く)については、労災保険の適用が除外されるとしています。

そのため、一般職の国家公務員(非常勤職員や行政執行法人の職員等も含みます)が公務上または通勤による災害によって負傷したような場合は、国家公務員災害補償制度が適用され、労災保険制度の適用が除外されることになります。

また、常勤の地方公務員が公務上または通勤による災害によって負傷したような場合も、地方公務員災害補償制度が適用され、労災保険制度の適用が除外されることになっています。

業種や雇用形態を問わず適用されます

パート・アルバイト

上記のとおり、労災保険は、業種や雇用形態を問わず、全ての労働者に適用されます。そして、雇用保険と異なり、雇用期間や所定労働時間も問わず加入が強制されています。

そのため、パート・アルバイトであっても労災により被害を受けた労働者は、労災保険制度の適用を受けることが可能です。

業務委託

労災保険制度は、労働基準法(特に第8章の「災害補償」)の特別法と位置づけられています。そのため、労災保険法上の労働者は、労働基準法上の労働者と同一の意義であるとされています。

そのため、アウトソーシングなどの業務委託を受けているに過ぎない者は、基本的には、労働者に該当せず、労災保険制度の適用を受けることができません

副業・兼業

サイドビジネスやダブルワークといった副業・兼業を行う労働者も増えていますが、副業・兼業の際に事故に遭う場合も存在します。

副業・兼業として複数の企業に労働者として勤務する場合は、各企業において、それぞれ労働者として労災保険へ加入することになります。そのため、このような場合は、副業・兼業の業務に関して事故が生じた場合であっても、労災保険制度の適用を受けることが可能です。

一方、本業については企業に労働者と従事し、副業・兼業はフリーランスという立場で行う場合も多いと思われます。このような場合、副業・兼業に関する業務についてはフリーランス、つまり個人事業主としての業務になるため、労災保険に加入することはできず、労災保険制度の適用を受けることができません。もっとも、一部のフリーランス・自営業者に対しては、特別加入制度として、労災保険に加入することが認められていますので、この制度を利用した場合は労災保険制度の適用を受けることが可能になります。

雇用形態別にみる労災保険の適用範囲に関する注意点

注意点①雇用契約を行う全ての従業員に適用される

上記のとおり、労災保険は、業種や雇用形態を問わず、全ての労働者に適用されるため、パートやアルバイトであっても労災により被害を受けた労働者は、保険金の支払いを請求することが可能です。

一方、契約類型が雇用契約ではなく、業務委託契約(委任契約)である場合や、請負契約であるような場合は、基本的には、労災保険制度の適用を受けることができません。

注意点②労災の補償対象は業務・通勤で発生する

労災として保険金を請求するには、労働者の怪我や疾病が、業務に基づいて生じたもの(業務災害)、または、通勤に基づいて生じたもの(通勤災害)であることが必要になります。

これは、労働者の雇用形態にかかわらず、労災に基づいて保険金を請求する場合は同じです。そのため、労災に基づいて保険金を請求する場合は、自身が労災保険制度の対象者であることに加えて、業務災害、または、通勤災害のいずれかに基づいて怪我や疾病が生じたということを立証する必要があります。

注意点③会社の労災隠しの可能性

労働者がパートやアルバイトといった非正規の従業員である場合、会社が従業員に生じた被害の重大性を軽視しがちです。そのため、企業が労災の事実を隠す「労災隠し」を行う可能性があるという問題が存在します。

すなわち、労災の発生を労働基準監督署に報告すると、労働基準監督署が原因や法令違反の有無について調査を行うのですが、このような調査を受けること自体が企業にとって大きな負担となることがあります。また、労働基準監督署の調査の結果によっては、行政処分や刑事処分が行われる可能性もあります。さらに、労災事故が発生した事業場については、労災保険料が増額される可能性があります。

このような理由から、企業が労災の事実を隠そうとすることがあるのですが、特に、被害に遭った労働者がパートやアルバイトといった非正規の従業員である場合は、労働者の立場を企業が軽視しがちであり、「労災隠し」を行う可能性が高くなるということがいえます。

また、労働者が労災の被害に基づいて保険金の申請を行う場合、所定の用紙を労働基準監督署に提出する必要があるのですが、その用紙には「事業主の証明」欄が存在し、事業主が記載を証明する箇所が存在します。そのため、労働者が労災申請を行おうとすると、企業が「事業主の証明」欄の記載を拒み、労災申請を妨害するということがあります。

しかしながら、労災保険法施行規則第23条1項は、「保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。」とし、企業を始めとした事業主に労災申請に対する協力義務を課しています。また、同条2項は、「事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。」ともしており、事業主に証明に関する義務も課しています。

そのため、事業者が「事業主の証明」欄の記載を拒み、労災申請を妨げるということは認めらないと考えられています。仮に、事業主が「事業主の証明」欄の記載を拒み続ける場合は、当該記載を空欄のまま保険金の支払い請求を行うことも可能です

労災トラブルにお困りの方は弁護士にご相談ください

パートやアルバイトといった雇用形態であっても、労災が生じた場合は、労災申請を行うことが可能です。もっとも、雇用形態が正社員と異なる場合は、雇用形態別にポイントを踏まえて労災申請を行う必要があります。

労災申請を行う場合は、制度内容に詳しい弁護士が所属する西村綜合法律事務所にご相談ください