安全配慮義務違反って?労災で損害賠償請求ができるケースについて解説

労働災害(労災)における安全配慮義務および違反について

そもそも安全配慮義務ってなに?

安全配慮義務は、企業が従業員の安全と健康を守るために法的に義務付けられている措置です。

この義務は、労働環境を安全に保ち、労働者が健康を損なうことなく働ける環境を提供することを含みます。具体的には、適切な安全設備の提供、危険予防のための研修の実施、作業環境の定期的な評価と改善が必要です。

企業に課せられた安全配慮義務の例

物的施設の管理に関する義務

企業は、工場やオフィスビルなどの物的施設が常に安全な状態に保たれるように管理する責任を負います。

これには機械の保守点検、建物の安全基準の遵守、消防設備の整備などが含まれます。例えば、機械設備には保護装置を設け、定期的にその機能が正常に作動するか検査を行う必要があります。

人的組織の管理に関する義務

この義務は、適切な教育訓練と組織運営を通じて、従業員が安全に作業できるようにするためのものです。

新入社員に対する安全教育の実施、緊急時の対応訓練、労働者同士の協力体制の確立などが含まれます。労働者が危険を予見し、適切に対処できるスキルと知識の提供が求められます。

健康配慮義務

企業は、従業員の健康を損なうことのないよう、適切な措置を講じる義務があります。

これには、過剰なストレスや長時間労働の防止、職場での適切な休憩時間の確保、職業病の予防策の実施が含まれます。

例えば、長時間の運転や操縦が必要な仕事であれば、定期的な仮眠や休憩などの措置が必要です。

職場環境配慮義務

職場環境の安全配慮義務には、作業環境を清潔に保つこと、有害な物質の適切な管理、適切な換気システムの確保などが含まれます。

たとえば、化学物質を取り扱う職場では、物質に対する適切な警告表示と安全な取り扱い手順が徹底される必要があります。

安全配慮義務違反とみなされるポイント

怪我・事故・疾病が予測される状況だったかどうか

例えば、機械の保護カバーが不十分である、滑りやすい床面に対する警告標識・マット(床材)の設置が不足しているなどの場合、予見可能なリスクが存在し、これが適切に管理されていなければ安全配慮義務違反とみなされる可能性があります。

対策によって労災を回避できたかどうか

労災が発生した際、事前に可能だった適切な安全対策が施されていたかどうかが問われます。

例えば、重い物の持ち運びに適切な機材(台車等)が提供されていれば事故を防げたかもしれませんが、その対策が講じられていなければ違反とされるでしょう。

安全配慮義務違反が認められる例

工事中に屋根や足場から転落してしまった

工事現場では、高所作業に対する安全配慮が特に重要です。

例えば、屋根や足場からの転落事故が発生した場合、安全ベルトの未使用や足場の不安定な設置が直接的な原因となることが多いです。安全ベルトの使用は労働安全衛生法によって義務付けられており、足場の設置も建設業の安全衛生規則に基づいて厳格に行われる必要があります。

このような基本的な安全措置が講じられていない場合、企業は安全配慮義務違反とみなされ、事故による損害賠償責任を負うことになります。

フォークリフトが倒れて下敷きになってしまった

フォークリフトの事故は、運転者の訓練不足や安全対策の不備が原因で発生しやすいです。

適切な操作訓練が行われておらず、フォークリフトの安定性や荷物の積載方法が不適切であれば、その使用は極めて危険です。また、フォークリフト周辺での作業者の安全に対する配慮が欠けている場合も問題です。

これらの条件下で事故が発生した場合、企業は安全配慮義務を怠ったとして賠償責任を問われる可能性が高くなります。

会社敷地内の路面が凍結しており、転倒してしまった

冬期における路面の凍結は転倒事故の一般的な原因です。

企業が敷地内の安全管理を適切に行っていない場合、特に凍結防止措置の不足は重大な安全配慮義務違反となり得ます。例えば、塩かけや砂撒きといった凍結防止策が講じられていない、対策が適切なタイミングで実施されていないなどの場合、企業は従業員の転倒による怪我に対して責任を追及されることがあります。

安全配慮義務違反で会社側に損害賠償請求が可能なケース

安全配慮義務違反があった場合

安全配慮義務違反が認められると、企業に対する損害賠償請求が可能になります。

例えば、企業が必要な安全装置を設置しなかった、適切な安全訓練を実施していなかった、または労働基準に適合する適切な作業環境を提供していなかった場合、これらはすべて安全配慮義務の違反と見なされる可能性があります。

具体的には、重機械操作に関する適切な訓練がなされていないにも関わらず労働者に操作を強いた結果として重大な事故が発生した場合、企業は安全配慮義務違反として賠償責任を負うことになります。

また、企業が労働者の安全を確保するための適切な管理を怠った場合、安全配慮義務違反として損害賠償責任が生じることがあります。

これは、例えば、工場での作業中に安全確保が適切にされていないために怪我が発生したケースなどが含まれます。

会社側への損害賠償請求が認められないケース

会社側に過失や違反がなかった場合

企業がすべての適切な安全措置を講じていたにもかかわらず発生した事故については、損害賠償請求が認められないことがあります。このような場合、事故は「不可避な事故」と見なされ、企業の責任は問われない可能性があります。

時効により損害賠償請求権が消滅してしまった場合

労災に関する損害賠償請求権には時効が設けられており、通常、事故発生から一定期間内に請求を行う必要があります。

この期間を過ぎてしまうと、たとえ有効な請求理由があったとしても、権利は消滅してしまいます。現在の日本の法律では、権利を行使することができることを知ったときから5年間、権利を行使することができるときから20年間、権利を行使しないときは、請求権が時効により消滅します(民法166条1項1号、2号、167条)。

労災の損害賠償請求の進め方

客観的な証拠を集める

労災の損害賠償請求を進める上で、まずは事故に関連する客観的な証拠を集めることが非常に重要です。

証拠として有効なものには下記が挙げられます。

  • 事故現場の写真: 事故が発生した場所の状況を示す写真は、安全配慮義務違反の有無を示す証拠として強力です。例えば、滑りやすい床が放置されている状況や、不安定な足場など、安全対策が不十分だったことを示す写真を確保することが重要です。
  • 目撃者の証言: 事故を目撃した同僚や他の従業員からの証言は、事故の状況を裏付ける重要な情報源です。目撃者の証言が事故の原因や経緯を具体的に説明できる場合、裁判や交渉において有力な証拠となります。
  • 医療記録: 事故による怪我の診断や治療を記録した書類は、怪我の具合や損害の程度を証明するのに必要です。これには治療費の領収書、診断書などが該当します。

会社と交渉を進める

集めた証拠を基にして、会社と損害賠償に関する交渉を行います。

交渉では、事故による損害の範囲、損害賠償の額、支払い条件などが議論されることが一般的です。労働者側は、適切な賠償を求めるために、事故の原因となった安全管理の不備や会社の過失を明確に指摘する必要があります。

労災の損害賠償請求は弁護士への相談をお勧めします

労災の損害賠償請求は複雑で専門的な知識を要するため、経験豊富な弁護士に相談することが最も効果的です。

弁護士は法的な主張を組み立ててくれることに加えて、証拠の適切な提示・迅速な手続きを行い、最大限の損害賠償を得るための支援を行います。

労災で損害賠償請求をお考えの方は西村綜合法律事務所へご相談を

労働災害に関する問題に対処するため、当事務所は専門的なサポートを提供しています。

安全配慮義務違反による損害賠償請求についてご不明な点があれば、お気軽にお問い合わせください。