労災認定後に症状固定の診断を受けた場合の対応

労働者が勤務中や通勤中に事故などに遭った際は、労災認定を受ける権利が生じます。

通常、病院に通うなどの治療を受けながら、並行して労災保険による給付金を受け取ることができるのですが、労災認定後に症状固定の診断を受けた場合は、どのように対応すべきなのでしょうか?今回は、労働災害における症状固定の基礎的な知識と共に、症状固定の診断後の正しい対応について詳しく解説していきます。

 

労働災害における症状固定の基礎知識

労働災害とは、勤務中や通勤中に発生した病気や怪我を指します。そして、雇用主である会社側は、労働者に十分な補償を受けられるために、「労働災害補償保険(労災保険)」への加入が義務付けられています。そのため、労働災害の被害者となった労働者は、労働基準監督署に申請をすることで、労災の各種保険給付を受け取ることができます。

症状固定とは

症状固定とは、簡単に言えば、これ以上リハビリや治療を継続しても、症状がこれ以上改善しないという状態のことです。そして労災では、医学上一般に認められているような医療効果が期待できなくなった状態を症状固定であると定義付けています。

労災における症状固定の扱い・位置づけ

労災保険では、一定期間の治療の後に症状固定と判断された場合、障害認定等級等に応じた労災年金や労災一時金が給付されることになっています。しかし、症状固定になると治療自体は終了してしまうため、療養給付などを受けられなくなる点には注意です。

労災認定後に症状固定を受けた場合の対応

では、労災認定後に症状固定を受けた場合、どのように対応すれば良いのでしょう?

具体的には、新たに以下の4つの対応をすることになります。

  • 障害者等級認定のための証拠集め
  • 障害(補償)給付の申請
  • 自己申立書の提出
  • 損害賠償請求の検討

①障害等級認定のための証拠集め

まずは、障害者等級認定のための証拠集めをしましょう。

というのも、障害(補償)給付の金額は、等級認定の結果によって大きく異なってきます。そのため、より良い結果を得るためにも証拠集めは非常に重要です。

一般的に有効とされる証拠は、医師による診断書です。場合によっては、障害者等級認定に精通した弁護士に助言してもらうなどしながら、医師に診断書を作成してもらいましょう。その他にも、MRIレントゲンや、CT(コンピューター断層撮影)が有効です。ご自身でできることとしては、普段の生活の様子を記した陳述書を作成するのも有効です。想定以下の障害者等級になることがないよう、しっかりと証拠を収集しておきましょう。

②障害(補償)給付の申請

有効な証拠が収集できたら、次は障害(補償)給付の申請に入ります。

障害(補償)給付は、症状によって何級の等級を認定するかについて、明確なルールが存在します。最も重い1級~軽い症状である14級まで分かれていて、症状が重いほど給付される金額が大きいです。なお、認定された等級に不服がある場合、決定があったことを知った日の翌日から3か月以内であれば、審査請求を行うことができます。その際は、労働基準監督署とは別の立場である、労働者災害補償保険審査官が妥当性について審査してくれます。

③自己申立書の提出

労災保険においては、自己申立書と呼ばれる書類も必要になります。自己申立書とは、労災被害者が事故などに遭ったために、日常生活においてどのような不自由を被っているのか、現在残っている痛みや痺れといった症状、手足の稼働領域の制限など、自身の症状について正確な記載を求められる書面です。自己申立書をスムーズに提出するためにも、日頃からどのような後遺障害があるのかをメモしておくのが良いでしょう。

④損害賠償請求の検討

労働災害であることが確実であるならば、会社に対して損害賠償請求をすることも可能となっています。会社には、「使用者責任」といって、従業員を雇用している使用者には、従業員が業務中に他人に加えた損害を賠償する責任を負う、といった規定があります。

または、会社側に労働者の生命や身体の安全確保を怠っていたと考えられる場合は、「安全配慮義務違反」として、損害賠償請求をすることも可能です。

ただし、上記2つの観点から会社に対して損害賠償請求を検討するのであれば、高度な専門知識が求められるため、必ず弁護士へ相談することを強くお勧めします。

障害等級による障害(補償)給付への影響

障害等級について具体的に知りたい場合は、厚生労働省のホームページ内にある「障害等級表(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken03/)」を参考にしてください。

労災被害者には、認定された等級に応じて、「障害(補償)給付」だけでなく、「障害特別支給金」、「障害特別年金または障害特別一時金」が支給されます。

なお、障害特別支給金を例として出すと、第14級が8万円であるのに対し、第1級は342万円となっています。こちらは極端な例ではありますが、第13級は14万円、第12級は20万円と大きな差があります。このように、認定された等級によって倍以上違ってくることもあるため、妥当と言える認定結果を得るためにも、自身の身体の状態をしっかり説明できるようにしておきましょう。変に見栄を張ったり、強がったりする必要はありません。

症状固定後に労災の給付金がもらえるケース

障害(補償)給付というのは、症状固定を前提に進めることができる手続きです。しかし、その後、症状が再発したのであれば、再度労災保険の対象にすることも認められています。この場合、改めて症状固定前の各種労災保険給付を受けられることになっています。

もし、再発を理由として労災給付の申請がしたい場合は、労働基準監督署から給付請求書を入手し、所定の手続きを行うようにしてください。

労災問題に関するお悩みは西村綜合法律事務所にご相談ください

労災問題は手続きが煩雑であり、専門用語も多く登場することから、個人で行うにはハードルが高いと感じている方も多いのではないでしょうか?

今回ご説明したような、労災認定後に症状固定の診断を受けた場合も、しっかりと給付を受けるためには、新たな申請が必要となってしまうのは前述した通りです。

また、障害(補償)給付を受けるための障害者等級認定は、正しい知識を持って申請を行わないと症状が軽いと誤解されてしまう恐れもあります。こうした事態を避けるためにも、豊富な経験と専門知識を持った弁護士が在籍している、西村綜合法律事務所へのご相談を一度ご検討ください。まずはお気軽にお電話にてお問い合わせいただければ幸いです。