墜落・転落による労災について弁護士が解説
建設業の現場では、墜落・転落といった労災事故が起きやすくなっています。墜落・転落の場合、重症化しやすいケースも多く、死亡災害へと発展する恐れもあります。
もし、墜落・転落による労災が発生した際は、労災保険給付を申請するだけでなく、会社、元請に対する損害賠償請求が可能なケースもあります。しかし、いずれの手続きも個人で行うには専門知識を要するため、今回は墜落・転落による労災について弁護士が解説します。
目次
墜落・転落における労災の基礎知識
まずは、墜落・転落における労災の基礎知識を身につけましょう。
労災とは、労働災害の略称で、業務中、または通勤中に労働者が負傷、もしくは病気にかかることを指します。そして、墜落・転落の労災は、例年の労働災害統計によると死亡者数の40%前後を占めています。
なお、墜落とは、身体が完全に空中に浮いた状態で落下することを指し、転落とは、階段や坂などに接しながら落ちることを指します。いずれも、転倒の次に多い労災原因です。
墜落・転落の事故が起きやすい業種
墜落・転落の事故が起きやすい業種は、建設業や清掃業となっています。いずれも、高い場所で作業するケースも多く、墜落・転落のリスクが常に付きまとう業種です。たとえば、脚立の上で作業中に脚立が倒れて墜落・転落してしまったり、高層ビルの窓の清掃作業中に足場が不安定になり墜落・転落をしてしまったりが典型的な事例となります。
また、建設業や清掃業に関わらず。その他の業種においても階段を移動している最中は墜落・転落が起きやすくなっています。たとえば、書類をチェックしながら階段を降りていたところ足を踏み外して転落してしまったり、山積みの商品を抱えながら階段を上っていたところ段差に躓き転落してしまったりといったケースは十分起こり得ます。
墜落・転落の労災認定の要件
業務中に起きた墜落・転落については、「業務起因性」と「業務遂行性」という2つの要件が認められることで、労災認定が行われ給付金の受給が可能となります。
業務起因性とは、墜落・転落による負傷が業務を原因として発生したことを指します。そして、業務遂行性とは、事故の被害者が使用者の指揮命令下にある状態で、墜落・転落によって負傷したことを指します。とはいえ、それほど難しく考える必要はなく、業務時間中の作業や移動中に発生した墜落・転落事故であれば、いずれも認められるのが一般的です。
墜落・転落による後遺症等のリスク
墜落・転落による事故の場合、ケガが完治せずに一定の障害が残る恐れが十分になります。後遺症等のリスクについては、常に視野に入れて治療を行うべきです。
もし、墜落・転落事故による負傷が完治せず、医師に症状固定(これ以上治療しても良くならない状態)と判断されてしまったら、「障害(補償)給付」を申請しましょう。
障害(補償)給付とは?
障害(補償)給付とは、業務中、または通勤中に負傷や疾病等が治ったとき、身体に一定の障害が残ってしまった場合に金銭が支給される制度です。墜落・転落の場合は、重症化するケースも多く、障害(補償)給付を受給する方も多くいらっしゃいます。
障害等級について
障害(補償)給付は、障害者等級に応じて受給できる金額が異なります。
障害者等級は、もっとも重い障害が第1級、もっとも軽度な障害が第14級となっていて、障害が重いほど需給金額が増える仕組みになっています。詳しい障碍者等級については、厚生労働省が作成している「障害者等級表」をご参考ください。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken03/index.html
会社、元請に対する損害賠償請求が可能なケース
墜落・転落の労災発生について、会社、元請側に責任が認められる場合、損害賠償請求が可能なケースがあります。墜落・転落の労災については重症化するケースも多いため、労災保険だけでは補填しきれない損害もあります。これらを補填するためには、会社、元請に対して損害賠償請求の実施を視野に入れるべきです。とはいえ、会社、元請を相手にするということは相応の覚悟が必要ですし、豊富な専門知識も求められます。もし、会社、元請に対して損害賠償請求を検討している方は、まずは弁護士に相談することからはじめましょう。
損害賠償請求実施の可否
会社、元請に対して損害賠償請求をする場合、以下2つの法的根拠が必要です。
安全配慮義務違反
安全配慮義務とは、労働者に対して使用者に課されている義務のことです。たとえば、業務中に高所での作業がある場合、墜落・転倒防止措置を安全対策として取らねばなりませんし、そのために必要な器具を準備し装着させる等、労働者に対し、十分な指導を行わなければなりません。もし、十分な指導が行われていなかった、もしくは必要な器具に不備があったといった場合、会社、元請側には安全配慮義務を怠ったとして、損害賠償請求が可能です。
使用者責任
同僚のミスなどで墜落・転落事故が発生した場合、その同僚に対しても損害賠償請求が可能ですが、使用者である会社、元請に対しても損害賠償請求することが可能です。これを「使用者責任」といって、従業員が他の従業員に損害を発生させた場合、会社もその従業員と連帯して損害賠償責任を負うという法的制度です。
該当する可能性のあるケース
墜落・転落事故が起きた際、会社、元請側に損害賠償請求が可能かどうかについては、以下の点をチェックしてみるのが良いでしょう。
・落下防止のための柵や帯など、安全対策が十分でなかった
・労働者の健康状態を事前に把握していなかった
・時間的に難しい無理な作業工程が組まれていた
・安全器具のメンテナンスが十分でなかった
上記のようなケースに該当する場合、会社、元請側に損害賠償請求が可能となる可能性がぐっと高くなります。とはいえ、ただでさえ労災に遭っているというのに、会社、元請側に金銭を請求したり、交渉したりといったことは簡単ではありません。また、現実には労災に遭う方のほとんどが初めての経験となります。ご自身ではよくわからないことも多く、場合によっては泣き寝入りなんてことにもなりかねません。ご自身が負った損害を適正な金額で賠償してもらうためにも、弁護士への依頼を検討することをおすすめします。
墜落・転落による労災でお悩みは弁護士にご相談ください
墜落・転落による労災では、会社が協力的でないケースはめずらしくありません。会社が労災を認めないのであれば、自ら労働基準監督署へ行き、労災申請の相談からはじめる必要があります。この際、会社側に連絡や指導等をしてもらえる場合もありますが、ご自身で書類を作成し、労災申請するように言われてしまうこともあります。慣れない手続きとなるため、どうしても不安という方は、弁護士への相談を検討してください。
また、労災保険だけでは補填されない損害というのも存在するのが現実です。それを補填しようと思えば、会社や元請に対して損害賠償請求をしなければなりません。個人が行うには非常にハードルが高い手続きです。もし、墜落・転落による労災についてお悩みの方は、どうか一度、当事務所にご相談いただけますと幸いです。